神戸事件少年A検事供述書
[これと同内容のものが文藝春秋1998年3月号に「少年A 犯罪の全貌」と題して掲載された。以下は、改行を大幅に略したほかは、ほぼ原文の表現をとどめてある]
[○付き数字は文字化けするので、「まる1」「まる2」のように表記した]
供述調書7
平成九年七月二十一日付
〔右の者に対する傷害、暴行、殺人、殺人未遂被疑事件につき、平成九年七月二一日兵庫県須磨警察署において、本職は、あらかじめ被疑者に対し自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げて取り調べたところ、任意次のとおり供述した。〕 一 前回に続いて話します。前回話したように、僕は、平成九年二月一○日に、何の理由もなく、またきっかけもない女の子ふたりのそれぞれの頭をショックハンマーで殴り付けたことから、僕は、到底超えることが出来ないと思っていた一線を超えたのです。超えることの出来ない一線というのは、人の道ということです。その人の道を踏み外したことから、僕にとっての理性とか良心というものの大半をその時落としてしまいました。それからというもの、一旦人の道を踏み外したら、後は何をやっても構わないと思うようになり、人の死を理解して、僕のものにしたいという、僕の欲望を抑えることが出来なくなってしまいました。そのため、僕は、僕の欲望を満たすためには、どの様なことをすればいいのかと、暇があればいつも考えていたのです。そして、前回話したように、僕は、僕の欲望を満たすための手始めとして、まず人間がどれ程の攻撃で、どの程度のダメージを受けるものなのかということを実験することにしました。あくまでも、実験ですので、僕が攻撃を加えた相手の人間が、死ぬか生きるかということは、考えていませんでした。
二 それでは、平成九年三月一六日に、神戸市須磨区竜が台で、一人の女の子を鉄のハンマーで殴り、その直後頃に、もう一人の女の子を龍馬のナイフで刺した件について話します。僕が、人間がどの程度の攻撃で、どの程度のダメージを受けるかという実験を具体的に実行しようと考えたのが三月一五日かあるいは当日の三月一六日のどちらかでした。実験する対象については、勿論、僕が傷付いたりしてはいけないので、僕に反撃出来ない人間であること、また、逃げられたり、誰かに助けを求められても困ることから、逃げ出したりしないような人間でなければならないと思いました。実行する場所は、当然、人気のないところにしようと考えたのです。この様に考えた僕は、三月一六目の昼前後頃、自宅を出ました。自宅を出る時には、僕が持っていた「龍馬のナイフ」と「鉄のハンマー」を持って行きました。この時点では、まだ相手の人間に攻撃を加える凶器を龍馬のナイフにするか、鉄のハンマーにするか決めていなかったからです。とにかく、人間を殴った場合に、人間がどの程度のダメージを受けるかということと、人間を刺した場合にどうなるかという実験をしようと思っていたからでした。
三 僕は、龍馬のナイフで刺したり、あるいは鉄のハンマーで殴って、人間がどの程度壊れるものか実験しようと思ったので、その鉄のハンマーはズボンのベルトのところに斜めに差しました。一方、龍馬のナイフは、ズボンのベルトのところに差したのか、ズボンのポケットに入れたのかは、はっきり覚えていません。その日の服装は、下はジーパンでしたが、上着はトレーナーだったかあるいはジャンパーを着ていたと思います。この様にして、僕は、龍馬のナイフと鉄のハンマーを持って、僕がいつも使っていたグレーのママチャリに乗って、家を出ました。行き先は、別に決めていませんでしたが、とにかく自宅がある××(町名)から離れた場所で実験をしようと思っていました。
四 そして、僕は、竜が台の団地のあるところの方へ通じる階段がある場所までやって来ました。その時、団地の中なら適当な人間、すなわち僕に反撃出来ない上に、上手く逃げることも出来ない人間を見付けることが出来るのではないかと思いました。そこで、僕は、その団地の中に登って行く階段の下に自転車を停めました。これから先のことは、今検事さんから竜が台小学校付近の住宅地図を渡されたので、その地図にボールペンで書き込みながら話します。
五 そのジャングルジムみたいなもので遊んでいる小学生くらいの女の子が一人いました。この女の子以外は、公園の中にいる人はいませんでした。この女の子を見た時、僕は、僕が攻撃を実行する実験材料に適当な人間だと思いました。瞬間的に、この女の子ならば僕に反撃したり、逃げ出したりはしないだろうと分析したのです。そこで、僕は、この女の子に近づき「ここら辺に手を洗う場所はありませんか。」と敬語を使って話しました。すると、この女の子は「学校にならありますよ。」と返事したのです。僕は、女の子に対し「案内してくれますか」と言いました。それは、僕自身、この公園は実験の場所としては相応しくないと直感的に判断し、とにかく周囲からの死角になる場所へ連れて行こうと考えたからでした。僕が、この様に言うと、女の子は「いいですよ」と返事しました。先程の地図に、学校まで案内して貰う道順を赤のボールペンで書きました。女の子が先に歩き、僕はその女の子の後ろから歩いて行きました。道を歩いて行くと、地図に「まる2」と書いたところまで来ましたが、その場所は、道路の側に木が生えていて、周囲からの死角になっている場所でした。僕は、ここで女の子に対する実験をやろうと決めました。僕は、女の子の後ろから歩いていたので、女の子を立ち止まらせようと思い、女の子に対し「お礼を言いたいのでこちらを向いて下さい」と言いました。すると、その女の子は、僕の方を向いたのです。そのため、僕と女の子は正面で向かい合う形になりました。僕は、女の子の後からついて行っている時、この女の子を龍馬のナイフで突き刺すか、鉄のハンマーで頭を殴るかどちらにしようかと迷いながらついて行っていました。ところが、女の子が僕の方を向いた時には、思わず鉄のハンマーの方へ手が行ったので、僕は鉄のハンマーで女の子の頭を殴り付けることにしました。僕は、ズボンのベルトのところに差し込んでいた鉄のハンマーの柄の部分を右手ですくい上げるようにして取り出し、その鉄のハンマーを右手に持ったまま、その右手が丁度僕の右耳付近にくる位まで鉄のハンマーを振り上げて、力を込めて女の子の頭を殴り付けました。女の子は、僕が鉄のハンマーを取り出した時「キャー」という悲鳴を上げましたが、僕は、それにも構わず殴り付けたのです。女の子の頭を目掛けて殴ったことは間違いありませんが、具体的に頭のどの部分かまでははっきり覚えていません。頭を殴り付けた瞬間、鈍い音がして、手応えがありました。その後、立て続けに一回か二回、女の子の頭を目掛けて、更に鉄のハンマーで殴り付けました。僕も興奮していたので、一回殴りつけた後、更に殴り付けた時に、女の子がどの様な状態だったかまでは覚えていません。しかし、直接鉄のハンマーが女の子の頭に当たったことは、手応えで分かりました。この様にして、女の子を殴り付けた後、僕は、今来た道を公園の方まで戻りましたが、その後、最初公園まで来た道を帰ったのか、あるいはそのまま公園前の道を北へと帰ったのかまでは、はっきり覚えていません。そして、最初に僕が停めていた自転車のところまで戻りました。この時は、鉄のハンマーを試したので、龍馬のナイフはこの次の機会にしようと思いました。
六 先程書いた地図の「まる1」のところに停めている自転車まで戻った僕は、そのまま家に帰ろうと思いました。自転車を走らせて行った状況は、先程の地図に青のボールペンで書き込みました。なお、走った場所は大きな道の右側の歩道を走って行ったのです。
七 自転車を停めた後、僕は歩道を歩いている女の子を刺すために、歩道の横の公園を抜けて、先回りして、すれ違いざまに女の子を刺そうと思いました。そこで、僕は、地図に書いたように公園の中を走り、女の子が歩いて行っている歩道へと出ました。公園の中を走っている時に、僕は、ズボンのベルトのところに隠していたのか、あるいはポケットの中に入れていたのかまでは、はっきり覚えていませんが、龍馬のナイフを取り出しました。そして、鞘から刃の部分を抜き出して、鞘はベルトの部分に挟んだか、あるいはポケットの中に人れました。僕は、右手に龍馬のナイフの刃の部分の柄を持ち、刃先が僕の身体の方に向くようにして、上着の袖口の中に隠し持ちました。そして、僕は、女の子が歩いて向かっている方向から女の子の方ヘ、同じ歩道上を歩いて近付いて行きました。その後、確か、図面に青のボールペンで「まる6」と書いた付近だったと思いますが、その付近で、僕は女の子とすれ違う直前に、右手の袖口に隠し持っていた龍馬のナイフを右手で取り出し、すれ違う瞬間に、僕は、その女の子の腹を目掛けて、龍馬のナイフを一回突き刺しました。僕は、龍馬のナイフは、いつも触っていて、扱い慣れていました。そして、龍馬のナイフの切れ味は良く知っていたのです。龍馬のナイフは、先端部分が尖って細くなっている上、刃の裏側が丸く削られているので、切れ味はもの凄く鋭いのです。それで、余り力を入れなくてもスッと身体の中に刺さり込んでしまいます。実際、僕は、猫を龍馬のナイフで刺したことがありましたが、それ程力を入れなくても十分差し込むことが出来ました。僕は、すれ違う瞬間に女の子の腹を目掛けて、龍馬のナイフを順手に持って一回突き刺しましたが、スッと女の子の身体の中に龍馬のナイフの刃が人っていく感覚を感じました。そして、僕は、その女の子とすれ違い、同じ歩道上を自転車を置いている場所まで行き、自転車に乗って、そのまま家へと帰りました。
八 家に帰った後でしたが、サイレンの音がかなり聞こえていたのを覚えています。僕は、疲れていたので、家に帰るとそのまま僕の部屋で夜まで寝てしまいました。その日の夜、目が覚めた僕は、実験ノートを作ろうと思いました。僕は、別の機会で話しているようにバモイドオキ神という神の存在を信じているのですが、その「バモイドオキ神」とこの三月一六日の事件とは、一切関係ありません。しかし、僕は、「人の死を理解して、僕のものにする」ための実験だといって女の子を殴ったり、刺したりしたのですが、心のどこかには、そんなことをしてはいけないという気持ちもあったのです。それなのに、何故、女の子を殴ったり、刺したりしたのかという理由付けが欲しくなりました。そこで、僕は僕が信じている「バモイドオキ神」と「僕がやった行為」とを結び付けようと考えた訳なのです。そのため、僕は、その日の夜、僕のノートに、僕がイメージしている「バモイドオキ神」の絵を描いたり、更には、この日僕がやった行為を正直に記載し、それを「バモイドオキ神」に報告するという日記兼実験ノートを作成しました。従って、そのノートに記載されている通りのことを、僕は実際に行っていたのです。
H9.3.16 H9.3.17
H9.3.23
H9.5.8
九 翌三月一七日の日は、僕は、僕が殴ったり、刺したりした女の子がどうなったのか知りたかったので、僕の家で取っている朝日新聞を見ました。すると、僕が鉄のハンマーで頭を殴った方の女の子は、重体で入院していることが分かりました。また、僕が龍馬のナイフで腹を刺した方の女の子は、思ったより軽い怪我だと分かりました。何れにしても二人とも死んでいなかったので、完全に壌れていなくて、やや壌れたということが分かりました。ところが、その後、僕が鉄のハンマーで殴った方の女の子が死んでしまったことが分かりました。僕の今の記憶とすれば、新聞を読んで女の子の死を知ったと思います。この様に僕は、新聞を読んでいましたが、その新聞では、連続通り魔事件等と書いていましたが、犯人像については、僕と結び付かない様な犯人像を書いていたので、僕自身、うわべでは捕まることはないだろうと思っていました。しかし、心の奥底には、一年も経たない内に警察に捕まるという気持ちもありました。
一○ この様に、僕は「人の死を理解して、自分のものにする」ための順序として、まず、「どの程度の攻撃で、どの程度のダメージを与えることが出来るか」という実験をしました。実験の結果は、鉄のハンマーで殴った女の子は死に、龍馬のナイフで刺した女の子は死にませんでした。
|
検事調書目次 <--供述調書6 |